高齢者栄養研究会

ここ数年来、厚生労働省では虚血性心疾患をはじめとする心疾患の予防のために、メタボリックシンドロームにならないための食生活の指導に力を入れているが、これはおもに中年世代に当てはまるものであり、高齢世代にも同じように効果が期待できるとは限らない。 高齢者の心疾患は、肥満やコレステロール値といったメタボリックシンドロームの要因よりも、むしろ歩行や日常生活に必要な動作ができなくなるといった、体の老化の加速により引き起こされる。 高齢期では栄養状態の低下が老化を加速させ、それが疾病の発症を引き起こすもとになる。 戦前の日本の食生活の中心は穀類だった。大正時代の中流農家の食生活を記録した資料によると、大人一人分として1日に米4合、味噌汁6杯、漬物20切れ。それに週数回、魚が加わるといったものだった。それに対して戦後、特に昭和40年ごろからは食事内容が大きく変わっていく。人々は肉類や卵、乳製品、油脂類を多く摂るようになり、それから平均寿命も順調に伸びてきた。これは肉類等からのコレステロール摂取量が増え、血清コレステロール値が上昇し改善されたことで、昭和30年代に多かった脳卒中が予防され、老化の速度自体も遅くなったと考えられる。 一方、このように動物性たんぱく質や動物性脂肪の摂取量が増えても、昭和40年代からしばらくはメタボリックシンドロームなど問題になっていなかった。つまり、「食事の適度な欧米化」が体の栄養状態を良好にし、健康を保って老化の速度を遅らせ、その結果平均寿命が伸びた、といえるのだ。